こねこ
こねこ(投資1年目)

NISAを始める前に、特定口座で積み立てていた投信が200万円ぶんあるんです。これ、NISAに引っ越しできますよね? 証券会社のサイトで「移管」ボタンを探してるんですけど、どこにも見つからなくて……。

トリ
トリ(管理人)

見つからないのが正解。そのボタンは存在しないんだ。特定口座からNISA口座へ移す方法は、制度としてひとつも用意されていない。だから道は2本しかない——「そのまま持ち続ける」か「売って、NISAで買い直す」か。今日はこの2本目のほうに、2つの代金が同時にかかるという話をするよ。

これから買う分をどちらの口座区分で買うかで迷っている方は、先にNISA成長投資枠と特定口座、どっちで買う?を読んでおくと、この記事の判断が早くなります。

この記事でわかること

  • 特定口座からNISAへの移管ができない理由(出典で確認)
  • 実は「NISA→特定口座」の一方通行だけは存在すること
  • 売って買い直すときに同時に払う2つの代金(税金と非課税枠)
  • 含み益50万円のケースで、実際にいくら減るかの計算
  • 私ならどう考えるか(既定解と、理由3つ)
  • 逆に、買い直しを検討していい人の見分け方

結論:移せません。制度としてその通り道がない

まず事実から。業界団体の公式Q&Aが、これ以上ないくらいはっきり書いています。

日本証券業協会「NISAのよくある質問」Q14 より

証券会社などの口座(特定口座や一般口座、一般NISA・つみたてNISA・ジュニアNISA)にお預けになっている上場株式や株式投資信託等をNISA口座に移すことはできません。NISA口座を開設した日以降、新たな資金で投資していただく必要があります

(出典:日本証券業協会「NISAのよくある質問」Q14・Q15/2026年8月9日確認)

同じQ&AのQ15では、さらに念押しがあります。「NISA口座を開設しても、いま特定口座で持っている株式・投資信託の配当金や売買益は非課税になりません」。口座を開いた日より前に買ったものは、あとから非課税の対象に引き上げられないということです。

そもそも:なぜ「移す」ことができないのか

こねこ
こねこ

同じ証券会社の、同じ人の、同じ商品なのに……。ただの帳簿の付け替えじゃないんですか?

法律の書き方を見ると理由がわかります。国税庁のNISAの説明は、非課税になる対象をこう限定しています。

非課税口座に係る特定累積投資勘定(つみたて投資枠)及び特定非課税管理勘定(成長投資枠)で取得した上場株式等について、その配当等やその上場株式等を売却したことにより生じた譲渡益が、非課税となります。

(出典:国税庁タックスアンサー No.1535「NISA制度」・令和7年4月1日現在法令等/2026年8月9日確認)

ポイントは「NISAの枠で取得した」という一言です。非課税かどうかは「いま何の口座に入っているか」ではなく、「どこで買ったか」で決まる。だから、買った場所が特定口座である以上、その商品はどこに置き換えても課税対象のままなのです。帳簿の付け替えでは、買った場所の履歴は変えられません。

ただし、逆方向の一方通行だけは存在する

まぎらわしいのですが、NISA口座から特定口座へ移すこと(払い出し)はできます(同Q&A Q67)。旧NISAの非課税期間が終わったときに自動で特定口座に移されるのも、この仕組みです。

移管の方向(イメージ図)

  • 特定口座 → NISA口座:できない(Q14)
  • NISA口座 → 特定口座:できる(Q67。取得価額は移管日の時価に置き換わる)

※ 出口だけが開いている片道通行です。「移管」という言葉を検索すると後者の説明が出てくるため、「できる」と誤解しやすい場所です。

選べる道は2本だけ

移せない以上、いま特定口座にある資産の扱い方は次の2つしかありません。

  1. そのまま特定口座で持ち続ける(何もしない)
  2. 売却して、その資金でNISA口座で買い直す

問題は2番のほうで、この操作をすると代金を2種類、同時に払うことになります。

買い直すときに払う「2つの代金」

代金その1:売った時点で確定する税金

特定口座で含み益が出ている商品を売れば、その利益に課税されます。税率は次のとおりです。

上場株式等の譲渡益にかかる税金

20%(所得税15%・住民税5%)+復興特別所得税(基準所得税額の2.1%)= 合計20.315%

(出典:国税庁タックスアンサー No.1463「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」・令和7年4月1日現在法令等/2026年8月9日確認)

ここで大事なのは、含み益は売らなければ課税されないということです。持ち続けている限り、この代金の支払いは先送りされ続けます。売って買い直すという操作は、本来まだ払わなくてよかった税金を、自分から前倒しで払いにいく行為でもあります。

代金その2:NISAの非課税枠

買い直しに使った金額は、そのまま生涯の非課税保有限度額1,800万円(うち成長投資枠は1,200万円まで)と、その年の年間投資枠(つみたて投資枠120万円・成長投資枠240万円)から差し引かれます(出典:国税庁 No.1535)。

枠は買付け残高(簿価残高)で管理されます(出典:金融庁 NISA特設ウェブサイト「よくある質問」/2026年8月9日確認)。つまり「すでに持っている資産の置き場所を変えるため」に枠を使うと、その分だけこれから入れる新しい資金の置き場が減るということです。枠の復活の仕組みはNISAの枠は売ったらいつ復活する?で詳しく整理しています(年内の再利用はできません)。

数字の翻訳:200万円の投信で計算するとこうなる

言葉だけだとピンと来ないので、こねこのケースで実際に計算します。

前提(イメージ図・計算例)

  • 特定口座(源泉徴収あり)で保有中の投資信託:評価額200万円
  • そのうち取得価額150万円・含み益50万円
  • これを全部売って、同じ商品をNISAの成長投資枠で買い直す
項目 金額
売却額 2,000,000円
課税対象(含み益) 500,000円
税金(20.315%) ▲101,575円
手取り=買い直しに使える額 1,898,425円
使った非課税枠(簿価) 1,898,425円

売る前は200万円ぶんの投資信託を持っていました。買い直したあとは約189.8万円ぶんです。同じ商品を持ち続けているだけなのに、保有している口数が約5%減った状態で再スタートになります(101,575円 ÷ 200万円 ≒ 5.1%)。

こねこ
こねこ

えっ、5%……。相場が5%下がったのと同じってことですか? しかも自分で操作して減らしたことになるんですね……。

トリ
トリ

そう。そしてこの5%は、将来の運用でいつか取り返せるかもしれないものであって、取り返せる保証はない。一方で非課税のメリットは「今後この189.8万円がどれだけ増えるか」に全部かかっている。確定したコストと、未確定のメリットを交換している——ここが判断の分かれ目だと思う。

なお、手元の別の資金10万円ほどを足して200万円ぶん買い直せば、口数は減りません。ただしその場合は使う非課税枠が200万円に増えます。口数で払うか、枠で払うかの違いであって、代金が消えるわけではない、という理解が正確です。

私ならこうする(既定解)

特別な事情がなければ、急いで売って買い直さない

特定口座の資産はそのまま持ち続け、NISAの枠は「これから入ってくる新しい資金」で埋めていく。私はこの順番で運用しています。理由は3つです。

理由1:コストは確定、メリットは未確定だから
税金20.315%は売った瞬間に確定します。対して非課税の価値は「買い直した後にいくら増えたか」で決まるため、増えなければゼロです。確実に減るものと、増えるかどうか分からないものを交換する取引になります。

理由2:枠は逃げないが、有限だから
1,800万円の枠は生涯にわたって使えます。今年使わなかった分が消滅するわけではなく、来年以降も年120万円+240万円のペースで使えます(出典:国税庁 No.1535)。急いで既存資産の引っ越しに枠を使うと、新規の入金を置く場所を先に埋めてしまうことになります。枠を何年で埋める設計になるかは新NISAの1,800万円は最短何年で埋まる?で計算しています。

理由3:判断を分割できるから
一度に全部を決める必要がありません。特定口座の資産を持ったまま、今年の枠は新規資金で埋める。それでも枠が余るなら、来年その時の含み益と相談して一部だけ動かす——という進め方ができます。決めないという選択肢が、この論点では有効に使えます。

逆に、買い直しを検討していい人

  • 含み益がほとんどない、または含み損が出ている人。税金の代金がゼロか、ごくわずかになるため、代金その1が実質的に発生しません(特定口座の損失は他の利益と損益通算できます。ただし買い直したあとNISA口座で出た損失は通算できません
  • NISAの枠が当分埋まらない人。新規の入金だけでは年間枠を使い切れないなら、枠という代金の重みが下がります
  • その商品をどのみち手放すつもりだった人。売却がもともと予定の行動なら、買い直し先をNISAにするのは自然な流れです
  • 保有商品を見直したい人。信託報酬の高い商品からの乗り換えを考えているなら、判断材料は投資信託の実質コストの調べ方にまとめています

いずれの場合も「株価が上がりそうだから/下がりそうだから」を理由に判断しないこと。相場の先は誰にも分かりませんし、この記事も売買をおすすめするものではありません。判断の材料は手数料・税金・枠という、いま確認できる数字だけで十分です。

米国株・外貨建て商品を持っている場合の注意

外貨建てだと代金が1つ増える

  • NISAで外貨建て商品を買った場合、年間投資枠の消費額は約定日の為替レート(対顧客直物電信売相場)で円換算した金額で計算されます(出典:日本証券業協会「NISAのよくある質問」Q34/2026年8月9日確認)
  • 円貨決済で売って円貨決済で買い直すと、為替の手数料を往復ぶん負担することになります。この仕組みは円貨決済と外貨決済の違いで整理しています
  • 投資信託には、解約時に信託財産留保額がかかる商品があります。かかるかどうかは商品ごとに違うため、目論見書でご確認ください

ありがちな勘違い3つ

Q. 証券会社に頼めば、特定口座からNISAへ移してもらえますか?
できません。証券会社の裁量ではなく制度上できない取扱いです(日本証券業協会 Q14)。「移す」のではなく「売って、買い直す」しか方法がありません。

Q. 売った年のうちに、その分の枠は使えますか?
使えません。年間投資枠は一度使うとその年のうちには戻らず、売却によって減った非課税保有額は翌年以降に再利用できます(出典:日本証券業協会 Q28)。年末に慌てて操作すると、買い直しに使える枠が足りない、ということが起こり得ます。

Q. 旧つみたてNISAで持っている分は、新しいNISAに移せますか?
移せません(Q14)。ただし旧NISAで買った商品は新しいNISAの枠の外側で非課税が続くため、そのまま持っていて損はありません。非課税期間が終わると自動的に特定口座へ払い出され、そのときの時価が新しい取得価額になります。

まとめ

この記事のまとめ

  • 特定口座・一般口座の資産をNISA口座に移すことはできない。NISA口座を開いた日以降の新しい資金で買う必要がある(日本証券業協会 Q14・Q15)
  • 非課税かどうかは「どこに置いてあるか」ではなく「どこで買ったか」で決まる(国税庁 No.1535)
  • 逆方向(NISA→特定口座)の払い出しだけは可能。検索で混同しやすい(Q67)
  • 売って買い直すと、税金20.315%非課税枠の2つを同時に払う。含み益50万円・評価額200万円なら約10.2万円=口数にして約5%の目減り
  • 私の既定解は「急いで動かさない。特定口座はそのまま持ち、枠は新しい資金で埋める」。理由は、コストが確定・メリットが未確定/枠は逃げないが有限/判断を年単位に分割できる、の3つ
  • ただし含み益がない人・枠が当分埋まらない人・どのみち売る予定だった人は、検討する価値がある

制度の内容は金融庁 NISA特設ウェブサイトおよび国税庁タックスアンサー No.1535でご確認ください(本記事は2026年8月9日時点の内容です)。個別の税務の取扱いは事情により異なるため、判断に迷う場合は所轄の税務署や税理士にご相談ください。

投資判断はご自身の責任でお願いします。