NISAって「利益が非課税」ってことは知ってたんですけど……逆に損した場合ってどうなるんですか? 会社の先輩に「NISAの損は救済されないぞ」って言われて、急に怖くなってきました……。
先輩の言っていることは、制度としては正しいよ。NISA口座で出た損失は、税金の世界では「なかったこと」として扱われる。ただ——ここが今日いちばん伝えたいところなんだけど、この弱点が実際に効いてくる人は、思っているよりずっと少ない。まず仕組みを条文で確認して、そのあと「自分は効く側か、効かない側か」を判定しよう。
この記事でわかること
- そもそも「損益通算」「繰越控除」とは何か(3行で)
- NISAの損失がどう扱われるか(国税庁の条文で確認)
- その差が金額にするといくらになるか(数字の翻訳)
- それでも積立勢がこの弱点を気にしなくていい理由3つ(既定解)
- 逆に、気をつけたほうがいい人の見分け方
そもそも「損益通算」「繰越控除」とは
投資の税金の話で必ず出てくる2つの言葉です。用語を先に3行で片づけます。
- 損益通算:同じ年に出た利益と損失を足し引きして、税金の対象になる金額を減らすこと
- 繰越控除:引き切れなかった損失を、翌年以降に持ち越して使うこと
- どちらも確定申告をして初めて使える制度です
特定口座や一般口座で上場株式等を売って損が出た場合、その損失は同じ年の売却益や(申告分離課税を選んだ)配当と相殺でき、それでも引き切れない分は翌年以後3年間にわたって繰り越せます(出典:国税庁タックスアンサー No.1474「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」・令和7年4月1日現在法令等/2026年8月確認)。
つまり課税口座には、損したときの受け皿が用意されている、ということです。
NISAの損失は「ないものとみなす」
では、NISAはどうか。国税庁の条文はこう書いています。
国税庁タックスアンサー No.1535「NISA制度」より
非課税口座で取得した上場株式等を売却したことにより生じた損失はないものとみなされます。したがって、その損失について、特定口座や一般口座で保有する上場株式等の配当等や譲渡益との損益通算や、繰越控除をすることはできません。
(出典:国税庁タックスアンサー No.1535・令和7年4月1日現在法令等/2026年8月確認)
同じ内容は、先ほどの損益通算のページにも念押しで書かれています(No.1474 注3)。「使えないことがある」ではなく、そもそも税金の計算に登場しない、という書き方になっているのがポイントです。
「ないものとみなす」って、なんだか冷たい言い方ですね……。損した事実は消えないのに。
そう感じるよね。でも理屈としては一貫しているんだ。NISAは「利益が出ても税金を取りません」という約束の口座。利益を課税対象から外した以上、損失も課税対象から外す——非課税って、そういう両側セットの制度なんだよ。片方だけおいしいとこ取り、にはならない。
NISA口座の中どうしなら相殺できる? という疑問
「NISA口座の中でA銘柄が損、B銘柄が得なら、中で相殺されるのでは?」と考える人がいますが、その計算自体が発生しません。NISA内の利益はもともと課税されないので、税額を減らすために相殺する必要がないからです。相殺という言葉が意味を持つのは、課税される口座の中だけです。
数字に翻訳すると、いくらの差か
制度の説明だけだと実感が湧かないので、財布の金額に置き換えます。
前提として、上場株式等の譲渡益にかかる税率は20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)です(出典:国税庁タックスアンサー No.1463)。
| 損失が出た口座 | 税金の計算 | 納める税金 |
|---|---|---|
| 特定口座で50万円の損 | 利益50万円 − 損失50万円 = 0円 | 0円 |
| NISA口座で50万円の損 | 利益50万円 −(損失はないものとみなす) | 約10万1,500円 |
※利益はいずれも特定口座で出たものとします。損益通算には確定申告が必要です(源泉徴収ありの特定口座内での相殺は自動)。
差は約10万円。決して小さくはありません。ここだけ見ると「NISAは損したときに不利な口座」に見えます。
10万円……。やっぱりNISAって、思ってたほど良い制度じゃないんじゃ……?
落ち着いて。今の表、よく見てほしいんだけど——この10万円の差が生まれるには「同じ年に、別の口座で、50万円の利益を確定させている」ことが必要なんだ。積立しかしていない人には、相殺する相手そのものがいない。ここが分かれ目だよ。
積立勢がこの弱点を気にしなくていい理由3つ
迷いどころの既定解(これでOK)
インデックス積立が中心の人は、「NISAは損益通算できない」を理由にNISAを避けなくてOKです。理由は3つ。
- ① 相殺する相手がいない——損益通算は「他に確定した利益がある人」だけが使える制度です。売却をほとんどしない積立勢には、そもそも通算先がありません
- ② 損失は「売って初めて」発生する——画面が赤いだけの含み損は、税務上は何も起きていません。売らない限り通算する損失も生まれません
- ③ 非課税とセットのトレードオフ——長期で増えた場合に効くのが非課税、減って売った場合に効くのが損益通算。両方は選べません。長く持つ前提なら前者に賭ける、というのが素直な整理です
ただし、次章に当てはまる人は例外です。
理由②をもう少し詳しく
ここは誤解が多いところなので補足します。含み損は損失ではありません。 評価額が下がっている状態と、売却して損失を確定させた状態は、税金の世界ではまったく別物です。
だから「NISAは損失が救済されない」という話は、正確には「NISAで損を確定させて売った場合に、その損失が救済されない」という話です。積立を続けている限り、この場面には入りません。相場が下がっている局面での考え方は米国株が暴落したとき、積立はどうする?で整理しています。
逆に、気をつけたほうがいい人
次のどれかに当てはまる人は、口座区分の選び方を一度考えたほうがいい側です。
損益通算が「効く」場面にいる人
- 特定口座で個別株を何銘柄も売買している——利益と損失が同じ年に両方出るため、通算のありがたみが大きい
- 短期で手放す可能性がある買いをしようとしている——値下がりで売る確率が高いほど、通算できない不利が現実化しやすい
- その年に大きな利益を確定させる予定がある(持株会の売却など)——相殺相手が実在するケース
この人たちにとっては、「その1回の買いをNISAでやるか特定口座でやるか」が本当の迷いどころになります。判断のものさしはNISA成長投資枠と特定口座、どっちで買う?にまとめました。
じゃあ、僕みたいに毎月S&P500を積み立ててるだけの人は……。
3つとも当てはまらないよね。だから今日の結論は「知っておくべきだけど、行動は変えなくていい」。私自身も、この論点を理由に積立の設定を変えたことは一度もないよ。もちろん相場の先は誰にも分からないから、断言はできないけどね。
ありがちな勘違い3つ
Q. NISAの損失は、確定申告すれば取り戻せますか?
できません。確定申告の有無にかかわらず、損失は「ないもの」として扱われます(No.1535)。申告書に書く欄そのものがありません。
Q. NISAで損して売ったら、使った枠も戻ってこないのですか?
枠は戻ります。NISAの非課税保有限度額は取得価額(簿価)ベースで管理されるため、値下がりして売っても買ったときの金額分の枠が翌年に復活します。ただし「損失は税務上ゼロ/枠は簿価で復活」であって、損した分が枠として増えるわけではありません。詳しくはNISAの枠は売ったらいつ復活する?をどうぞ。
Q. 配当が出ているときはどうなりますか?
NISA口座で受け取る配当・分配金は非課税なので、そもそも税金の計算に乗りません(受取方法の指定によって扱いが変わる点はNo.1535 注1に定めがあります)。特定口座側の配当と損失を相殺したい場合は、そちらの口座内の話になります。米国株の配当にかかる税金は米国株の配当金にかかる税金で整理しています。
まとめ
この記事のまとめ
- NISA口座で出た売却損は、税務上ないものとみなされる。特定口座の利益との損益通算も、3年間の繰越控除もできない(国税庁 No.1535・No.1474)
- 差は具体的には、利益50万円・損失50万円のケースで約10万円(税率20.315%)
- ただしその差が生まれるには「同じ年に、別の口座で確定した利益」が必要。積立中心の人には通算する相手がいない
- 含み損は損失ではない。売らなければ、この論点の土俵に上がらない
- 個別株の売買が多い人・短期で手放す可能性がある人だけ、口座区分を選び直す価値がある
制度の内容は金融庁 NISA特設ウェブサイトおよび国税庁タックスアンサー No.1535でご確認ください(本記事は2026年8月6日時点の内容です)。個別の税務の取扱いは事情により異なるため、判断に迷う場合は所轄の税務署や税理士にご相談ください。
投資判断はご自身の責任でお願いします。